1つ前の記事で,生徒が主体的にテキパキと動く学級…これを生徒主体型学級と呼びました。

学級を『生徒主体型学級』にしていくためには,生徒の『聴く態度』の育成が必須です。

『聴く態度』が育った学級は,例えば以下のような学級です。

係の生徒が,何かを話そうとしたとき,他の生徒たちが自動的(自主的)に
静かになり,係の生徒の話を聴こうとする。
担任の教師は,ただ教室の隅に座っているだけ。

このような学級にするためには,どのような指導をしていけばよいでしょうか?

ふつう,急にこのような学級にはなりません。
いくつかのステップ
を踏む必要があると思います。

この記事では,学級に『聴く態度』を根付かせるためのステップを紹介します。
(力のある先生なら,すべてのステップを同時並行で行えると思います。)


【ステップ①】 ~担任教師の話を『聴く』~

担任教師の話を聴くことができるようになることが,『聴く態度』の育成の最初のステップです。
当たり前の話ですが,担任教師の話を聴くことができないのに,リーダーや係の生徒の話を聴くことができるはずがないのです。


さて,これはよく帰りの会で見る風景です。特に中学2,3年生の帰りの会。

担任『では,明日の連絡をします。』
生徒『ペチャクチャ』

担任『おい,静かにしなさい。』
生徒『ペチャクチャ』

先生『明日は,家庭訪問の日程希望用紙の締切りです。』
生徒『ペチャクチャ』

先生『うるさい!』
生徒『…』

先生が怒鳴って,ようやく生徒は静かになりました。
生徒が静かになったので,担任の先生は話を再開しました。


…これでは,『聴く態度』もへったくれもありませんね。
そもそも,担任が最初に『では,明日の連絡をします』
と言った時点で,生徒が自動的に静かにならなければいけません。

では,担任の先生はどのようにすればよかったでしょうか?


私は,このような担任の先生は,日常的にあるテクニックが不足しているとと考えています。

それは『待つ』というテクニックです。
意外と,『待つ』をやらずに,すぐ注意や指導をしてしまう先生方が多いように感じています。

最初の部分の,

担任『では,明日の連絡をします。』
生徒『ペチャクチャ』

この時点で,待ちます。
注意したくなる気持ちをグッとおさえます。
ここは我慢比べです。
直立し,しゃべっている生徒の方を真顔で見ます。

10秒待ちます。20秒待ちます。30秒待ちます。

そのうち,しゃべっている生徒の周囲の生徒が必ず気づきます。

生徒『おい,先生がお前の方見てるよ。』 『静かにしろって!』

そして,完全に静かになるまで待ちます。こちらを向くまで待ちます。

担任『静かになったので,話を始めます。』


これを何度か繰り返していくと,生徒たちからこのような印象が付きます。
『この先生は,私たちが静かになるまで話を始めない先生なんだな。』
という印象です。

帰りの会が長引いてもかまいません。徹底的に待ちます。
子どもたちは早く帰りたいですし,部活にも行きたい。
帰りの会が長引くのは絶対に嫌なのです。そこを利用します。

この『待つ』を繰り返していけば,担任が『それでは話をします。』と言うだけで,
魔法のように生徒が静かになり,こちらを向くようになります。
(多動傾向のある生徒がいる場合は,周囲の生徒がすぐに注意をするようになります。)

これができるようになれば,あとはしめたものです。

『君たちが自主的に静かになって私の話を聴いてくれるから,とっても気持ちよく話ができます。』
『君たちが自主的に静かになって私の話を聴いてくれるから,とっても嬉しいです。』
『君たちは私が話そうとしたらすぐに静かになってくれる。素晴らしいですね。これを「自主性」といいます。』
『君たちが私の方を向いて話を聴いてくれるから,とっても安心します。「聴いてくれてるんだな」って思います。』

など,色々な言葉で具体的にほめていきます。

では,『ほめることで定着させる』ということは,教師なら誰しもが知っていることでしょうが,
なぜ生徒をほめる必要があるのでしょうか?

これはウィニコットの言うところの『アウター・ルール』『インナー・ルール』という言葉で説明ができます。

元々は,『聴く』ということは,生徒にとっては担任に押し付けられたルールです。
(強制されたルールをアウター・ルールと呼びます。)

この,担任に『押し付けられたルール』を,『自分が守りたいルールだ』と生徒に思わせていきます。
(この『自分が守りたいルール』をインナー・ルールと呼びます。)

つまり,生徒をほめることによって,
『担任に聴かされている』という状態から,
『自分でちゃんと聴こう』という状態にもっていきます。
生徒にとっての『アウター・ルール』を『インナー・ルール』に徐々に変えていくのです。
(この考え方は色々な実践に使えると思います。)

ですので,聴く態度を『定着』させるためにも,生徒が『聴いてくれていること』を
しっかりとほめてあげると良いと思います。

このようにして,『担任の話を聴く』という学級ができあがっていきます。


さて,次のステップは,『担任の話を聴く』から『生徒の話を聴く』という状態へのレベルアップです。
これについては,次回の記事に具体的に書いていきます。


(※これだけでは『聴く態度』が育たたない学校もあります。しかし,かなり『聴くことができる学級』に近づくと思います。
生徒指導が困難な学校では,『聴くこと』ができない生徒を個々に別室で指導したり,『聴くことが正義なんだ』と
いう内容の話を学級でしたりと,様々なことをしていきます。)